Vol.57

歯科治療と健康格差

私事ではありますが、幼少期から歯科治療にはとても苦労しています。永久歯は学童期にほぼすべての歯が虫歯になり、近所の歯科に毎週のように通院し被せものを作られました。大学5年生のときに被せものの下から歯根に食い込む虫歯になり、そのときに初めて永久歯を失いました。そこから歯科のお世話にはあまりならなかったのですが、それが災いしたのか、この2年間で次々と永久歯を失っています。

さて、歯科に通院できている私はまだアクセスがあるため恵まれているといえます。

東北大学歯学部の相田潤先生の指摘(2019年)によると、世界で最も多い疾患は永久歯の未処置う歯であり、日本でも4000万人が罹患していると紹介しています。口腔の健康状態が悪いと、口腔機能のみならず、呼吸器疾患、心臓血管疾患、認知症、抑うつなどの全身疾患のリスクが有意に高まることや、睡眠時間が異常を来す、要介護状態に陥る危険が高まります。

また、歯科疾患の健康格差の背景には、職業格差や所得格差、幼少期の環境など自己責任ではすまされない社会的決定要因があります。その健康格差は単なる二極化ではなく、階段状の「社会的勾配」となってすべての人が影響を受けています。健康格差への対策として、禁煙やフッ化物洗口などの公衆衛生的手段を講じることで、だれもが健康になる環境を作ることが必要です。

そういった意味でも、歯科疾患は他の全身疾患の前に症状が現れ、かつ、経済状況で歯科治療は後回しにされることから、口の健康状況は「鉱山のカナリア」と指摘されることがあります。経済格差が健康格差につながらないよう、「いつでも、どこでも、だれでも」受診できる「保険でより良い歯科医療」を求めることが重要です。